私たちエクスペディション アマナでは、ポリネシア人がハワイ諸島に到達する以前にアメリカ先住民が草を束ねて作った最古の船アシ船(草束舟)でカルフォルニアから渡っていた可能性があると仮説を立てて新たな古代海洋ルートの可能性を検証するプロジェクトです。
これは古代の航海術、海路移動パターンの謎を解き明かすだけでなく、アシ船で運ばれる生態系移動による環境変化を環境学、生物学的な新たな理解も目指します。
さらに、最新のテクノロジーによるライブ配信を活用して古代の航海を世界と共有し、教育、科学、文化への深い理解を促進します。
このプロジェクトは、自然との調和に根ざした古代の知恵を象徴し、持続可能な自然環境との関わり方を世界に伝えるものです。
プロジェクト概要
EXPEDITION AMANAとは
アフリカから人類が各地へ拡散していく過程で、歴史的には存在しないとされている「アメリカ大陸の海洋民族がハワイ諸島に到達した可能性」を検証する航海プロジェクトです。
そのために現地で使われていた草を束ねた最古の船を再現し、サンフランシスコ湾から4000km離れたハワイ諸島への航海が可能かどうかを実際の実験航海によって検証します。
帆を使った航海をする為、アメリカで綿の布が発見された4500年前[*1] の航海を想定し、15mの長さのアシ船で風と海流の自然の流れを利用してハワイを目指します。
当時はまだ海図や地図もなく、水平線の向こう側に向けて見えない島を目指す航海は、便利な道具に依存する現代の航海とは大きく異なっていたはずです。
ではどうやって見えない島にたどり着いたのか?
この実験航海では、各地の海洋民族や先住民族に伝わる教えや伝承、時間の捉え方、自然との関わり方にも注目し、新たな古代海洋移動ルートと最古の航海技術の可能性を探っていきます。
[*1] Robinson, William J. "Cotton in Prehistoric America: A Study of Its Significance." American Antiquity 25, no. 2 (1960): 234-239.
AMANAプロジェクトの経緯
AMANAプロジェクトの発端は、アシ船での太平洋航海を追求する中で感じた歴史的な「空白」から始まりました。
アフリカからユーラシア、そしてアメリカ大陸へと海岸沿いに拡散した古代海洋民族の移動の流れがあることがわかっています。しかし、アメリカ大陸から太平洋の島々への航路は認められていない点に違和感を覚えました。
はたして、アジアからアメリカ西海岸へと数万キロを移動してきた海洋民族は1万年の間一度もハワイ、ミクロネシア諸島へと船で移動していなかったのだろうか?
その理由として、ハワイ人のDNAがアジア由来であること、原始的な船ではアメリカからハワイまでの4,000kmの航行が難しいこと、また1000年以前の考古学的証拠がハワイでは見つかっていないことなどが挙げられます。
従来の人類学の定説では、ハワイ諸島に最初に定住したのは800〜1000年前にマルケサス諸島、タヒチ諸島から移住したポリネシア人とされています。
しかし、これまでの研究を深める中で、
「アメリカの海洋民族がポリネシア人よりも前に風と海流にのりハワイにアシ船で到達していた可能性があるのではないか」
との仮説に至りました。これを裏付ける要因として以下の3点が挙げられます。
1.アメリカ海洋民族の高度な航海技術
近年の研究により、1万4千年前からアメリカ大陸に渡った海洋民族は、東アジアから海岸沿いを船で航海してアメリカ大陸へ到達した可能性が明らかになっています。つまりすでに造船技術と長距離航海の経験を有していました。
2.ハワイへ向けて自然の風と海流
サンフランシスコ湾沖からハワイやミクロネシアに向かう風と海流は、漂流物でも届くような航海に利用できる自然の流れが存在しています。
3.アシ船文化の広がり
アフリカやアジアと同様に、北米西海岸から中南米にかけて古代からアシ船文化が存在していました。これらは湿地や湖を拠点に発展し、独自の航海技術を育んできました。
以上の理由から、アメリカ西海岸からアシ船でハワイへ到達する可能性があると仮説を立てました。この仮説の実証として、実際に長さ15mのアシ船を再現し、サンフランシスコ湾からハワイ諸島への4,000kmの航海を目指しその可能性を検証する「EXPEDITION AMANA」を計画することになりました。
新たなアシ舟のデザイン
試作船アマナ号は、北米のネイティブアメリカンのデザインを参考に世界各地のアシ船の特徴を融合させた、石川 仁のオリジナルデザインです。
現在までに、大型アシ船の存在はペトログリフや壁画、伝承から推測するにとどまっており、明確な記録は見つかっていません。
しかし、世界各地で草を編む文化や、小型アシ船が漁に使われていた事実、また草を使えば古代でも製作可能だったことから、多くの学者や探検家が大型アシ船の建造に挑戦してきました。
石川 仁自身もこうした挑戦に長く関わり、合計13000kmの大型のアシ船の航海経験もしてきました。特に北太平洋を渡るアシ船の可能性は十分に感じており、今回は北米型の新たなデザインを追求することに決めました。サンフランシスコからハワイへの航路に向けて、これまで多くのアシ船長距離航海で使われた南米チチカカ湖のスタイルを再現するのではなく、北米のアシ船のスタイルを参考にし、それまでの経験を織り込んだ新たなデザインを創り出しました。
テスト航海の実施
・2019年12月 テスト航海実施を目標にクラウドファンディングに挑戦し、目標金額達成。テスト船の刈り取り開始。
・2023年 サンフランシスコ湾にて9mの試作船の建造とテスト航海を実施
パンデミックで3年間の延期を経て、取り組んだテスト船の建造と航海は、多くの支えにより実現しました。最初はわずか1人のボランティアから始まった船の製作でしたが、最終的に100人以上が集まり9mの試作船が無事に船が完成。
< 製作中 >
< 進水式 >
テスト航海は12回行われ、ヨット経験者やボランティアが参加し、新たなデザインの船体の構造や安定性に関するさまざまな検証を行うことが出来ました。
< 航海中 >
< 航海後 >
試作アシ船でのテスト航海を終えて
3ヶ月に渡るテスト航海の後には、試作船アマナ号をアシを刈り取った故郷である湖へと運搬し自然のままの状態で浮かべ浮力の経過観察を行い、2024年4月に1年間の浮力調査を完了。
2024年4月19日、湖畔でポモ族ビッグバレー長老アンクル・ロン氏、ジョー・ウェバー氏を中心に土に還すセレモニーを行い、アシの刈り取りから土に還すまでを再現したこのプロジェクトの全てを終えることができました。
最終的に船を湖へ還せたことから、テスト船アマナ号は土に還り肥やしとなり、新たに芽吹いたアシが未来の太平洋を渡るアシ船の一部となってくれることでしょう。まさにアシ船はその思いをつなぎ循環する乗り物だということを心に刻むことができました。
テスト船建造の成果
テスト船「アマナ号」建造とテスト航海を通じて、サンフランシスコベイエリアの地域社会にアシ船とその文化の存在を広める重要なきっかけが生まれました。
それだけでなく、ネイティブアメリカンの方々とアシ船文化を共有し、継承する貴重な機会も得られました。
また、建造の過程では、実際の建設地の選定や資材の調達といった本番に向けた重要な課題を確認することができ、プロジェクトの具体化に向けた大きな一歩を踏み出しました。これにより、多くのボランティアの協力が得られ、今後の建造活動にも期待が高まっています。
さらに、「サンフランシスコ・クロニクル」などの地元メディアにも取り上げられ、多くの人々の関心を集めています。このプロジェクトを通じて、地域のヨットクラブや市民イベントで紹介の機会が増え、理解と支持が広がりつつあります。
・2024年7月 サンフランシスコにて本番にむけた準備を開始
2024年7月から9月にかけて、チームリーダー石川仁とアシ船職人野上義史が渡米し1年かけて申請した湿地帯での刈り取り許可をもとに、本番の船の製作に向けた刈り取り調査を実施。2026年の本番に向け必要となるアシ5000束の最適な刈り取り場、乾燥場所、運搬、保管の仕方の調査、暑さ対策や休憩場所の確保などの重要事項をデータ化しました。
また、今回の渡米ではネイティブアメリカンとの交流も目的の一つでした。
このプロジェクトでは最古の航海を考えるにあたり先住民族に伝わる自然との関わり方やアシ船文化の伝承からの学びを大切に考えています。現在はポモ族との相互協力がありますが、それだけでなくアシ船文化の歴史がある他部族も多いことがわかり、ビッグバレー・ランチェリアの長老アンクル・ロン氏とジョー・ウェバー氏と共に部族間のイベントにも参加し、エクスペディションアマナの趣旨を共有し、刈り取りや船の建造への協力について話し合うことが出来ました。
| スケジュール
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2023年10月〜2025年3月
日本でのスポンサー募集活動
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2025年6月〜9月
アシの刈り取り作業
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2025年年末まで
マスト、セイル、舵、小屋など構造物の制作準備
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2026年2月〜4月末
長さ50フィートのアシ船の建造
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2026年5月末〜6月
テスト航海および荷物積み込み後、カリフォルニア・サンフランシスコ湾を出航。太古と同じく風と海流に乗って4,000km離れたハワイ諸島を目指します。
(このスケジュールは2025年10月までに200万ドルの活動資金、又は相応の現物支援の調達またはボランティア参加を目標に進めています)
葦船とは
数千年前から使われていた最古の船の一つ
世界中で海を渡り、移動や運搬、食材採取の手段として海岸線、湖、河川で使われ、丸太イカダ同様に最古の船の一つとされています。
材料は各地で異なり葦、パピルス、トトラ、竹、ガマなど水辺の草をツタや縄で束ねた船です。
古くは、メソポタミア文明、エジプト文明や南米・ティワナコ文明に登場し、ヨーロッパ、アメリカ大陸西海岸、ワンチャコ海岸(ペルー)、アマゾン川、ラプラタ川、ナイル河、チチカカ湖、タナ湖、ヴィクトリア湖、ポリネシア等で葦船の文化が伝わっています。
日本では、イザナギノミコトとイザナミノミコトとの間に生まれた最初の神様である蛭子命が、葦舟に乗せられて海に流されたと「古事記」に記されています。
秋田市の日吉八幡神社や鹿島神社などでは葦船が神輿となっており、神事としての葦船の姿が日本各地に今もあります。
代表プロフィール
石川仁(いしかわ じん)1967年生まれ
探検家 葦船(葦舟/あしぶね) 職人 葦船航海士 アマナ号の船長
20歳よりバックパッカーの旅。
1990〜 ラクダと共にサハラ砂漠単独2,700km、アラスカでイヌピエット族と捕鯨用獣皮舟作り、南米ジャングルを丸木舟で単独川下り800km、アンデス・チチカカ湖を葦船で一周など、現代社会では体験することの難しい自然との関わり方を極地に住む先住民から学ぶ。
1997〜2002 スペイン人探検家キティン・ムニョス主宰の国連公式の葦船プロジェクトにクルーとして参加。大型の葦船マタランギ号で太平洋、大西洋をのべ12,000km航海する。
2005〜 プロジェクトリーダー・船長として高知県から伊豆諸島神津島まで葦船で日本初の外洋1000kmの航海。
2003〜 カムナ葦船プロジェクトを設立。各地で葦船作りのワークショップを主宰。大小合わせて350艘の葦船を製作。
2018〜 EXPEDITION AMANAを設立
2023 9mのプロトタイプのTule boat (アシ船)を建造・テスト航海
現在、サンフランシスコからハワイへアシ船での実験航海を目指して準備中。
米国: EXPEDITION AMANA Nonprofit Organization Association 代表
日本:一般社団法人 EXPEDITION AMANA 代表理事
石川 仁 ホームページ⇨ http://jinishikawa.com
ご協力お願いします!
寄付・ボランティア募集
EXPEDITION AMANA(エクスペディション アマナ)では応援してくださる方のご寄付、プロジェクトのお手伝いをしてくださるボランティアスタッフ「葦船クルー」を募集しています。
英語、スペイン語翻訳、葦船についての資料製作、リサーチなどお手伝いくださる方はご連絡ください。一緒に葦船の太平洋航海を作りましょう。
*詳細はお問い合わせください。
【 翻訳 】
ー知恵をつなぐー
「EXPEDITION AMANA(エクスペディション アマナ)」は数万年前の古代から伝わる葦船の知恵を学ぶことを目的としています。
葦船は一本一本の葦が束になってロープで結んである船です。ですから一人の思いが重なりあいこのプロジェクトが生まれると信じています。
僕も同じ葦(あし)の最初の1本です。
是非みんなでこのプロジェクトを作っていきましょう。
このプロジェクトに賛同していただける皆様。
一緒に太古の智慧を未来へ繋げるようにご協力いただければこんなにうれしいことはありません。
ぜひ、ご支援、ご協力をどうぞよろしくお願いいたします。
EXPEDITION AMANA
プロジェクト・リーダー
Captain Jin Ishikawa
キャプテン